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パーソナリティ理論

更新日:4月19日



パーソンセンタードアプローチを支える理論の一つに、人間観について説明されたものがあります。アプローチを通して関わる人間という存在を、どのようなものであると認識しているのかが記述されています。

この考えを提唱者であるカール・ロジャーズは、パーソナリティ理論(1)としてまとめています。


ここでは理論内容を10のポイントに整理しています。1-8は、多くの人間に共通する仮説になり、共通点の多い幼少期から説明されています。9-10は、少し特殊な条件下での説明となっています。



1.幼児について仮定された特徴


人間は少なくとも幼児期には、次のような3つの性質があると仮定できます。


① 経験していることが現実。


幼児は、自分の経験していることを現実 (reality) として知覚しています。

そのため、どのような現実が幼児の眼前に広がっているのかは、本人が最も多くのことを意識化できる可能性をもっていることになります。このことから、他者は個人の「内部的照合枠」を完全にとってみることはできないとされています。

ここでいう内部的照合枠とは、個人が意識する可能性のあるあらゆる感覚・意味・記憶などの主観を指します。

それらがいつどのように意識されるかを、他者が部分的にでも知る方法は、感情移入的に推しはかること以外はないといえます(2)。


ちなみ、パーソンセンタードアプローチでは、この内部的照合枠について援助者が感情移入的に推しはかる目的で、推しはかってみた内容を仮説的に検証するためにクライエントに内容を伝え返していきます。カール・ロジャーズはこの方法を「理解の確認(Testing Understandings)」または「知覚の確認(Checking Perceptions)」と命名しました(3)。このようなやりとりをして、共感的理解を形成していきます。



② 幼児には、自分の「有機体」を実現していくという生来の傾向がある。


有機体とは、単に生命体とも訳すこともできますが、ここでは、さまざまな欲求を実現させようとする実現傾向を持った存在として概念化されています。

この欲求には、マズローの空気・食物・水などに対する欠乏欲求を満たす傾向だけではなく、身体全体の生理的な発達や、道具を使うことなどを前提とした身体の使い方に関わる発達、生殖についての増大や強化に関連する発達などを含みます。

また、有機体が直面するその時々の状況に対して生じる欲求減少や緊張減少に関する動機づけも、実現傾向のひとつの側面といえます。


さらに、幼児はこの基本的な実現傾向を通して、あらゆる現実との交互作用を行なっています。

つまり、幼児の行動は、 自分が知覚している現実のなかで欲求を満足させるための、有機体の目標指向的な企てといえます。



③ 有機的価値づけのプロセスを経験しはじめる。


幼児は、実現傾向を通して幼児にとっての現実と関わっていくことで、そのなかで経験した事柄を価値づけていきます。つまり、有機体を維持したり強化するものとして知覚される経験は、肯定的な価値づけが生じ、反対に維持や強化を不可能にすると知覚される経験には、否定的な価値が生じます。こうしたプロセスを「有機的価値づけ」と呼びます。

幼児は、肯定的に価値づけられた経験を求めるようになり、否定的に価値づけられた経験を避けるように行動していきます。




2.自己の発達


自身が知覚していることが現実であり、実現傾向を通してその現実と関わって、そこで経験した事柄に有機的価値づけが生じていくと、知覚している現実や欲求が、部分的に複雑になっていきます。

この複雑化していく現象を「分化(differentiation) 」と呼びます。

さらに、分化したことで現実として経験している内容が具体的になっていき、その内容を捉えやすくなります。この捉えやすいくらいに具体的になることを象徴化といい、存在しているということや機能しているという事柄を意識できる状態になります。この意識状態を自己経験と呼び、パーソナリティの発達の最初の過程となります。象徴化される内容は、重要な他者との関係を含む環境との相互作用によって、自己概念に作り上げられます。この自己概念が、現実として知覚する対象を構成していきます。




3.肯定的な配慮を求める欲求


自分自身についての知覚対象である自己が、意識されるようになってくると、肯定的な配慮を求める欲求を発達させていきます。

この欲求の満足は、必然的に他者が現実として経験している内容である「経験の場」に対する推測を行うことになります。

肯定的な配慮を求める欲求を他者によって満たされていると認める時には、必ず自分自身の肯定的な配慮を求める欲求の満足も経験していることから、肯定的な配慮を求める欲求が実現されるということは、相互に認め合うような価値ある関係性があるといえます。

特に、本人にとって重要な社会的他者と感じられる関係性においては、この肯定的配慮の影響は強いものになります。

その影響力によって、有機的価値づけにもとづく動機よりも、肯定的配慮にもとづく動機の方が優位になっていきます。つまり、他者からの評価にもとづくようになっていくのです。




4.自己配慮を求める欲求の発達


社会的他者との肯定的配慮のやりとりをしていくうちに、そこからの学習によって、自分自身が自分のための社会的他者となっていき、そのうち実際の社会的他者を伴わなくても、肯定的配慮が得られる満足や得られない欲求不満・喪失を経験するようになります。このような自身に対する肯定的配慮を「自己配慮 (self-regard) 」と呼びます。同時に、自己配慮を求める欲求という学習によって分化した欲求が発達していきます。




5.価値の条件の発達


個人の発言を含む行動が、重要な他者たちによって条件つきで肯定的な配慮に値する・しないというように判断されると、実際の他者を伴わない自己配慮も、同じように条件つきの肯定となっていきます。つまり、自分の行ったこの経験は価値がないから自分自身を肯定的に配慮するに値しない、といった具合に形成された価値に従って評価し、その後も求めたり回避するための基準となります。

こうした評価を「価値の条件 (condition of worth)」といいます。この価値の条件も、関係性から形成された自己概念であることから、その個人のパーソナリティに統合されます。


重要な他者が、条件をつけることなく肯定的な配慮をすることを「無条件の肯定的配慮」と呼びます。

理論上は、無条件の肯定的な配慮だけを経験することで、自己配慮も無条件のものとなり、有機的価値づけにもとづく評価とも一致し続けることが考えられます。そのため、価値の条件と有機的価値づけによる方向性の違いから、葛藤するということもないと仮定することができます。ですが、実社会では無条件の肯定的配慮だけを経験することは困難であるといえます。

それでも、この「無条件の肯定的配慮」は理論的に重要な概念となっています。




6.自己と経験の不一致の発達


自己配慮を求める欲求を満たすために、自分のなかにできあがってきた価値の条件に従って、自分の経験した内容を、選択的に知覚するということが生じます。


選択的に知覚するというのは、価値の条件に一致する経験であれば、意識の上で正確に知覚され、象徴化されるというプロセスになり、逆に、価値の条件に反する経験は、あたかも価値の条件に一致しているかのように歪めて知覚されたり、部分的ないし全体的に否定され、なかったことになるということを指します。


こうした価値の条件は、生理現象をはじめとする有機体のなかで起きることにも適応されます。たとえば、幼児が知らない大人に出会って生理的には脅威を経験していても、それが保護者の知り合いであることから、怖がっている態度を保護者に否定的な評価ばかりされると、そのうち価値の条件が形成され、保護者のいない場面であっても、自分が怖がっているという経験が否定され、うまく意識化されないということが起きます。この場合、自分が人前で恐怖したり緊張することが、正確に象徴化することが困難になり、自己概念も恐怖や緊張を受け入れないものとなります。


自己概念は象徴化によって多く形成され、その集合体である「自己構造」を構築します。この自己構造をパーソナリティといいますが、さきほどの例では、恐怖や緊張といった有機体が経験していることが、うまく統合されない不安定なパーソナリティになる可能性が考えられます。


例に挙げたほどではなくても、実社会では誰しもが大なり小なり価値の条件を持っています。それぞれに形成された価値の条件に従って、選択的な知覚が起きてくると、自己と経験の間の不一致・心理的不適応・傷つきやすさといった状態も作られていきます。




7.矛盾した行動の発達


価値の条件が自己構造に統合されていることによって、自己と経験していることの間で不一致が起こる現象は、行動面にも反映されます。


自己構造を構成する自己概念と一致している行動があると、その自己概念は実現されているといえます。

このような行動は、意識に正確に象徴化されます。

反対に、自己構造に一致しない行動があると、自己経験として認知されなかったり、何らかの自己概念と一致するように歪曲されて知覚することになります。




8.脅威の経験と防衛の過程


自己構造やそこに含まれる価値の条件に一致しない有機体の経験が継続すると、その経験は脅威を与えるものとして潜在的に知覚されます。


そして、もしその有機的経験が意識にのぼって正確に象徴化されてしまうと、自己構造は矛盾をきたし崩壊の脅威にさらされます。また、価値の条件も乱され、自己配慮を求める欲求をもう満たすことができなくなります。


こうした事態に陥らないよう予防するために、人間の防衛的反応が機能することになります。

防衛的反応には、先ほどから登場している経験を歪曲して意識化したり、意識すること自体を否認することが挙げられます。


このような防衛によって、さまざまな有機的経験が生じても、自己構造や価値の条件と一致するように保っているのです。


ちなみに、この防衛も意識に対して現れるのと同じように、行動面にも生じてきます。

防衛的行動には、強迫症状など一般に神経症的な行動として見なされているものや、精神病的な行動と見なされている妄想的な行動や緊張病的状態(catatonic states)も含まれます。

パーソンセンタードアプローチでは、神経症や精神病という概念は、クライエント理解に誤りを起こしやすいだけでなく、不適当な概念であるとして、本当に存在するものとして扱うことを避けています。




9.崩壊と解体の過程


ここまで公式化されたパーソナリティについての理論は多かれ少なかれ、すべての個人に適用できます。

ここからは、 特殊な条件が存在する時にだけ起こるようなプロセスについて述べられています。


自己と経験の不一致の度合が大きく、なおかつこの不一致が明確になるような重大な経験が突然起こった場合、有機体の防衛は十分に機能することが困難になります。

そうした場合、まず、極度の不安が経験されます。この不安の程度は、自己構造がどの程度崩壊の危機にさらされているかによって決まります。


次に、防衛が失敗したことによって、自己構造と一致しない経験が意識の上に正確に象徴化され、自己構造が崩壊します。その結果、「解体(disorganization) 」と呼ばれる状態になります。

解体の状態は、それまで歪曲されたり否認されていた有機体の経験と一致した行動をとるようになります。こうした行動は、周囲から理性を失った行動として感じられます。




10.再統合の過程


解体状態であっても、再統合のプロセスを進ませることができます。

この再統合は、自己と経験の一致を増やしていくプロセスになります。


脅威になりやすい経験が、自己構造に統合されるためには、以下の二つの条件が必要になります。


  1. 価値の条件が、減少しなければならない

  2. 無条件の自己配慮が、増加しなければならない


この二つの条件を達成する方法として、重要な他者からの無条件の肯定的配慮が、本人に伝わっていくことが挙げられます。

これが伝わるためには、感情移入的理解の文脈のなかで無条件の肯定的配慮がなされなければなりません。


無条件の肯定的配慮が知覚されていくと、今まであった価値の条件は弱められるか、解消されていきます。

さらに、無条件の肯定的な自己配慮も増加します。

このようにして、二つの条件が達成されると、脅威が減少し、それに伴って防衛も低減して、自己と不一致だった有機的経験は、正確に象徴化され、自己概念のなかに統合されていきます。

結果的に、脅威となるような経験に出会うことが少なくなることから、日常生活で防衛はあまり必要なくなり、歪曲や否認が減り、防衛的行動も減少します。つまり、あらゆる経験を正確に象徴化しやすくなるため、有機的価値づけを伴う現実との相互作用によって分化していく成長のプロセスが進みやすくなります。

また、自己と経験がより一致するようになることから、 自己配慮が増加します。

加えて、他者に対する肯定的配慮も増えていくことが示唆されています。




【参考文献】

(1)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,p225

(2)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,p207

(3)Rogers, C. R. 1957,The Necessary and Sufficient Conditions of Therapeutic Personality Change. Journal of Consulting Psychology. In Kirschenbaum, H. & Henderson, V. L. eds., 1989 The Carl Rogers Reader. Houghton Mifflin(伊東博訳,2001,セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件,伊東博・村山正治監, ロジャーズ選集(上):カウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文,誠信書房,p153)


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